2023年に小谷裕司現会長から社長の座を引き継いだ金声漢社長は、さらなる会社の発展に尽力しています。
金社長へのインタビューでは、長期ビジョンを基に、会社・社員の将来展望を語ってもらいました。
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代表取締役社長
金 声漢Seikan Kin
1987年に名古屋大学大学院工学研究科修了後、日本技術開発(現エイト日本技術開発)入社。
2021年より就任した取締役管理本部長兼HD取締役企画本部長を経て、2023年8月8日、代表取締役社長に就任した。
70周年を迎えて
まずは70周年を迎えての所感とともに、EJECの強みについてお伺いできますか。
2009年の統合があってこその70周年だと、深く、強く感じています。そして、統合を決断いただいた小谷会長をはじめとする先輩方に心から感謝しています。個人的には3代目の社長として70周年を迎えることができたことも感慨深いものがあります。
我が社の強みを一言で言えば、広域コンサルタントという顔とともに中四国で培った地域コンサルタントとしての顔を持つ点です。我が社以外の業界10位以内の会社は、全て東京本社です。これらの中央大手の会社とは異なる歴史を持ち、また、それが故の魅力を持たなければならないと考えています。中央大手と同じような業容を持ちながら、地域に対して広域コンサルタントでなければ提供できない価値を提供していく。官民連携事業が広く進められる中、まずはこれまでの顧客とともに新しい事業に向かい、そして、そのモデルを全国に――。これが我が社の目指すところです。
「長期ビジョン」を立案されました。その背景にはどんな意図がありますか。
「2030年にどのような企業になるのか。また、そのために何をするのか」を2021年度に社員に公表したのが「長期ビジョン」です。「次世代創造企業」をスローガンとして、価値ある環境と持続可能な社会の未来を切り拓くことを目指し、次の4つの基本方針を示しました。
- ①ESG経営・SDGs対応をグローカルに推進
- ②強靭な経営基盤の構築
- ③多様な社会の変化への対応力強化
- ④DX推進による競争優位な中核事業の確立
また、企業の規模としては、受注・売上高350億円、社員の数は1,630名を目指すことを謳っています。
立案した2021年当時は、少子高齢化、東京一極集中、地方創生、価値観やライフスタイルの多様化、新型コロナの蔓延、企業に対するESG・SDGsへの要請など、時代の大きな変換点にありました。そのような社会環境に対して、我が社も統合後10年を経て、新たな道標を持つ必要があったのです。特にスローガンである「次世代創造企業」、そして「未来型社会インフラ」というキーワードを重視しています。
業界の未来と社会の変化
建設コンサル業界の将来において、どのような変化が起きるとお考えですか。
これまで、高度成長期からバブル期までのインフラ整備を目指せばよかったよき時代、そして、バブル崩壊から民主党政権に至る建設業界の冬の時代がありました。今現在は、自然災害とインフラの老朽化の問題が顕在化してきています。さらに今後は、気候変動による自然災害リスクがますます高まり、インフラの老朽化は歯止めがきかず、人口の減少や高齢化、都市圏への人口集中がますます加速化するという、歪な社会構造が予想されます。
また、長期ビジョン立案当時には考えられなかった異常気象や災害の発生、ウクライナやガザ・イラク戦争の勃発と長期化、中国経済の凋落が起こりました。そして、物価や人件費の高騰、日本では少数与党の誕生など、我々を取り巻く環境、我々が立ち向かっていかなければならない環境は今後も大きく変化し続けていくでしょう。
このような時代であっても、我々建設コンサルタントの役割が、社会資本整備に関する調査・計画・設計・維持管理を主体とすることには変わりはありません。とはいえ、扱うテーマがますます複雑化・複合化することもまた間違いありません。我々が単独で対応できる問題の比率は確実に減り、初めて直面する課題に対して「他分野の人々とともに、どのように解決するのか」ということを考えていかなければならない時代になるでしょう。言い換えれば、従来の役割に固執してしまえば、我々の活躍するステージは減少し、凋落の一途を辿るということです。他分野の人々と協働でき、また、共創できる会社になること、これが次世代創造企業であり未来型社会インフラなのだと考えます。
成長とイノベーションの方向性
今後の事業展開において、特に注力する分野や技術はありますか?
基本は我が社の得意分野である3つのコアコンピタンスを活かして、基幹事業である重点6分野(①自然災害・リスク軽減、②インフラメンテナンス、③デジタルインフラソリューション、④環境・エネルギー、⑤都市・地域再生、⑥公共マネジメント)を拡充することです。そして、これによって一定の業績を確保しながら、我が社の新領域を開拓していくこと。この両輪の活動を如何にして担保するのか、ということだと考えています。
新領域を新事業と新市場に分けるとすれば、現在考える新事業とは、いわゆる官民連携事業です。包括管理やPPP・PFIなど、これまで発注者側をサポートする立場で事業を進めてきましたが、事業者として我々も参入していかなければなりません。また、新市場とは、我々が扱ってこなかったテーマに対する市場です。国の各種施策によって今後拡大が期待できる商品、技術分野は数多くあります。同業他社にとっても、まだまだ新市場であるうちは、類似の実績でここに参入することが可能ですが、今のうちに参入していかなければ、すぐに参入は困難となります。
これまでも新領域の拡大というスローガンを言い続けてきていますが、残念ながらそれを実現できない状況が続いています。新しいことを進めるためには、その前提となる人材の確保、働く人のマインドを高める会社の制度や仕組みの整備が不可欠です。キャリア採用を積極的に進め、即戦力となる人材を獲得するとともに、会社の中に新しい血を入れることによって会社を活性化させ、制度や仕組みの整備や刷新をすることで、働く人のマインドを高めていく。このことを前提条件として、新しい取り組みを進めていきたい、そのように考えています。

社員と企業文化
社員の皆さんがビジョンに共感し、ともに歩むために、必要なことは何でしょうか。
ビジョンに共感する前に、会社の仕事や、その内容にやりがいを感じ、会社に所属することに喜びを感じているかどうか。いわゆるエンゲージメントですが、これが高くない限り、ビジョンへの共感も一緒に歩むという動機付けも生まれません。エンゲージメントを高めない限り、前向きな組織文化も生まれてこないのではないでしょうか。
第5次中期経営計画においても、「イノベーションカルチャーの醸成」という柱となる戦略を掲げていましたが、結果は十分ではありませんでした。会社の制度や仕組み、業績目標、評価制度、全てが会社から社員へのメッセージにほかなりません。そのメッセージに一貫性を持った軸がない限り、会社と社員が同じ方向を向けるはずがないのです。業績を拡大するという目標、新しいことをやるんだという目標、これを達成するために必要な行動、そしてそれを実行する社員に求められる人材像、これらの全てが一貫した軸を持たなければなりません。新しいことをやるということは、当面は利益が出ないかもしれません。ならば、今の利益のみを社員に求めるような評価は、新しい業務の実行に対してミスリードです。会社が社員に求める人材像から、改めて、そのような人材を輩出する人事制度や評価制度、処遇制度を整える必要があり、社員に対して資格取得を厳しく求めるとともにそれらを支える教育制度にも対応しなければなりません。また、会社が組織に課す目標に対して、その活動を妨げないための組織の評価方法の検討など、一言では非常に難しいですが、絡み合ったこじれやねじれを紐解き、一つの軸として整理し、それをまずは制度や仕組み、ルールとして落とし込むことが全ての前提となるはずです。
社員の皆さんには、やりたいこと、なりたい姿、言葉を変えれば、自分自身の目標、または、チームの目標を持ってほしい。そして、その実現のために、会社に対して常に発言をし続けてほしいと思います。
グローバル展開
グローバル市場への進出やパートナーシップの長期的な計画はありますか。
海外事業の拡大は、統合以来の課題として実現できないまま、今に至っています。様々な施策を打ちながら、結局のところ、人の確保も進まず、海外事業を拡大することができてきませんでした。JICAからの受注だけでは海外事業の拡大は難しく、ADB、WBや現地政府などの新規顧客の開拓やそのための営業活動も必要と考えています。
JICAだけでは難しいというのは、ODA自体が今後、それほど拡大していくとは考えられないからです。また、限られた国内の海外エンジニアの実績によってポジショニングされている現状を、キャリア採用だけで打破していくことは非常に難しいと言わざるを得ません。
このような状況のもと、2023年、タイ国のダイナミック社とE・JHDが資本提携を結び、タイ国企業とのアライアンスによる業務実施が可能な状況となってきました。また、タイの現地法人であるEJECタイランドも、E・JHDの傘下にダイナミック社が加わったことによって、タイ国でのインフラメンテナンス分野や東南アジアでの環境分野の事業を拡大する基盤が出来上がりました。これにより、海外業務を現地で実施できるベース、言い換えれば、業務の現地化の第一歩が整いつつあると考えています。海外業務の拡大を我が社単独で考えるのではなく、グループ会社の業績拡大も含めて考えることによって、より柔軟な取り組みが進められるのではないかと期待しています。
JICA業務の受注拡大を実現するため、海外業務の実績を持つ国内の人材のキャリア採用とともに、日本語を必要としない海外顧客に対する事業拡大については、タイ国企業とのアライアンスを最大限に活用する。この両輪で海外展開を進めていきます。また、第5次中期経営計画内で実施を予定していた東アフリカの現地事務所の開設、さらなる現地事務所の開設も具体化していく予定です。
「長期ビジョン」の成果と課題
「長期ビジョン」の現状の成果や進展について教えてください。
会社の業績を継続的に拡大し続け、今のポジションを得ていることは、何よりも社員の皆さんやこれまでの経営陣の努力の賜物だと感謝しています。また、2021年にDX推進室を設置し、経営のDX化への取り組みを開始しました。第5次中期経営計画の最終年度である2024年に何とか稼働を開始した新システムの導入は、会社がさらに進化していくための基盤づくりとなっているものと確信しています。
最大の課題は、人材の確保です。これまで、新卒採用は積極的に進めてきましたが、歪な年齢構成を是正し、実質的に戦力を増強する観点での、大規模かつ積極的なキャリア採用は行ってきませんでした。このことがベテラン社員にかなりの負担をかけることとなり、結果として、会社を支える社員のマインド、社風という面で、望ましい姿を実現できていないと感じています。これを何とかしなければ、会社の明日は築けません。まずは、十分な人材を確保する。そして、社員に対して明確なメッセージとなる制度や仕組みをつくる。常に、太く、ぶれない軸をもって、2030年に目指す姿を実現するための取り組みを進めていかなければならないと思います。
皆さんへのメッセージ
最後に「未来のエイト日本技術開発」の姿を念頭にメッセージをお願いします。
ビジョンの達成がゴールではありません。それは成長し続けるDNAを持つ企業となるためのスタートラインに過ぎないのです。次世代創造企業という姿を体現できる会社になることができれば、自らの枠組みをさらに拡大し、活躍の場をもっともっと広げていくことができるはずです。
私は、我が社を「日本で一番いい会社にしたい」と常日頃から公言しています。その実現には、業界トップ5程度の事業規模が必要です。そうでなければ、やりたいことを実現することができません。厳しいけれど、あたたかい会社、やりがいを持てる会社、どんな時でも本当のことを言える会社、社員と社員の家族を幸福にできる会社。今後とも、その実現を皆さんとともに目指していきたいと思います。