1999年トルコ・コジャエリ地震被害調査速報  磯山龍二


6.2トヨタSA工場

 トヨタSA(トヨタ-サバンジュ自動車工業株式会社)は、トヨタ自動車と現地の財閥サバンジュとの合弁企業であり、1990年に設立された。工場 はアドパザリ西郊に1994年に完成、カローラのみを生産している。高速道路沿いにあり、高速道路の跨道橋が落橋したアリフィエのすぐ近くにある。工場の すぐ脇を主断層が走り、工場の敷地の一部にも副次的なものと考えられる亀裂が大きく走った。このような状況にもかかわらず工場の建物、主用施設の被害は比 較的軽微で、我々が調査した9月9日の時点で、大部分の復旧は終了している感じで、操業再開へ向けて精密機器等の点検が行われていた。

 図-6.1に工場のレイアウトを示す。この図の右側に亀裂が数本走っているが、右側の方が大きく、左側の塗装工場を貫通するものはそれほど顕著な 亀裂ではなかった。写真-6.3は、トヨタ自動車の北澤伸泰氏が直後に撮影したものである。図-6.1の右側100m程度のところにサカリヤ川が流れ、主 断層は高速道路からサカリヤ川に達している(そこで古い橋が落橋している)。また、トヨタSAの亀裂は横ずれに加えて、上下成分がかなりあり、トヨタSA の敷地に現れた亀裂は主断層ではなく副次的な断層と考えたほうがよいかもしれない。

 この工場の敷地はアドパザリの盆地的な平野の南縁にあたり、地盤はよいとは言えない。図-6.2に工場敷地内のボーリングデータを示すが、12m 程度のところに締まった砂礫層がある。アドパザリの地盤状況から考えて、工学的基盤はかなり深そうである。地下水位は1.7mと浅く3.35m程度の深さ までシルト質砂がある。この層が液状化してもおかしくないが、敷地内には噴砂など液状化の形跡はなく、亀裂の中にも砂は見られなかった。全体の状況から判 断して顕著な液状化は生じていないと考えてよい。

  ----  地割れ  1プレス工場 2ボディー工場 3塗装工場 4組立工場

   11,12オフィスビル、26変電所

図-6.1 トヨタSA工場のレイアウト

写真-6.3 トヨタSA敷地の亀裂(トヨタ自動車北澤氏撮影)

図-6.2 トヨタSA敷地のボーリングデータ(トヨタSA提供)


 トヨタSAは工場建設にあたってイスタンブール近郊のいくつかの候補地を持っていた。現在の地点は、工場として十分な広さの平地(100万平方 m)が確保できることから選定された。しかし、この敷地は北アナトリア断層に接していること、さらに地盤があまりよくないということがあり、十分な耐震設 計を施すことが必要と判断された。この工場の設計はイギリスのコンサルタンツ(ARUP)が行ったが、彼らは、断層や地震危険度に関して十分な調査を行 い、構造設計にあたっては、直近のマグニチュード8クラスの地震を考慮したとのことである。この際の設計地震動(震度)の大きさや、推定手法等を問い合わ せ中であるがまだ返事をもらっていない。設計にあたってコンサルタンツは、トヨタに許容変形量を決めるよう要請したが当初トヨタは許変位ゼロと言ってきた そうである。これでは設計不能なので、再度交渉、ようやく1cmの許容変位が決定した(これは柱間の上下方向相対変位量と考えられる)。工場では耐震設計 に関して詳しい話は聞けなかったが、上記の話から判断して、相当大きな地震力に対して弾性設計が行われたものと考えられる。

 工場の主な建物は鉄骨造で、各柱は4本のプレキャスト杭(40x40cmの正方形断面)で支えられている。杭長は約14mで、砂礫層に支持されて いる。基礎の設計にあたって液状化の検討がなされたか否かは不明である。柱はH型鋼であるが、板厚は50から125mmの一体成型の特注品とのことで相当 にごついものである(写真-6.5)。また、H型鋼の弱軸と強軸が交互に配置されていた。工場の外壁は鋼板の間にポリウレタンを注入した横板積み上げたも ので、おそらく軽量化を狙ったものと思われる(写真-6.4参照)。外壁のパネル2枚が落下した。機器等はすべてトラス内に収容されている。

写真-6.4 トヨタSA工場主用建物の外観(科学技術庁志波氏撮影)

 写真-6.5 工場内部の様子


 建物の被害は上記の主要なものではほとんど起こっていない。わずかに、床に亀裂が入ったり、目地に隙間が入る程度であった。しかし、機器について は架台からはずれてり移動したものがかなりあった。ただし、これらも移動制限装置がついていればかなり防げたように思えた。主要な建物以外では若干の被害 が発生していた。写真-6.6に、変電機器がおいてあった建物(動力棟)の被害状況を示す。RCフレームで天井をRC系の材料で作っておりトップヘビーの ため被害を受けたものと考えられる(これも含めて2棟が被害)。

 工場建物の被害は軽微であったが、供給施設の被害は大きかった。電力については、レール上のトランス2基のうちの一基が脱線した(写真- 6.7)。もう一基も移動制限装置の性能ぎりぎりのところでかろうじて残っていた。調査時点では脱線しなかった1基で電力をまかなっていた。ガスはイスタ ンブールを経てアドパザールに至る高圧天然ガスパイプラインから分岐して供給されていたがこのラインは亀裂のある個所を通っておらず無事であった。一方、 水道(消化用含む)については亀裂(断層)にかかっていたせいもあり、随所で破損した。特に亀裂のあった付近の消火栓(消火用の配管は口径200mmの溶 接鋼管)の大部分が破損していた(写真-6.8)。また、照明用等の電力ケーブル(地下)も亀裂が現れた付近でだいぶ被害をこうむっているようであった。

 地震発生時(8月17日)は夏季休暇中であり、ラインには車がほとんどなかった。操業中であれば、ラインにつるされている車がぶつかるなどして大 きな被害になっていたかもしれない。我々が調査した時点(9月9日)ではまだ機器の点検中であったが、10月中には操業を開始するとのことであった。操業 再開時の災害防止、精度チェック等の観点からまだ相当の点検、検査が必要なようであった。また、従業員の多くが被災していることから(658名の従業員の 80%がアドパザリに居住、139名以上の家屋が全壊、約1/3の従業員がなんらかの被害)、あまり早く再開できないとの事情もあるようであった。

写真-6.6 動力棟の被害状況-柱上下端で塑性化

写真-6.7 トヨタSA工場内変圧機の脱輪(トヨタ自動車北澤氏撮影)

写真-6.8 消火栓の被害-φ200mm鋼管、消火栓の部分が破損、復旧してある)


6.3産業施設のまとめ

本節の調査にあたって、トヨタSA小幡副社長、Tamer Unlu氏,Celal Yuksel氏、トヨタ自動車トルコ駐在員室北澤伸泰氏に大変お世話になった。また本文をまとめるにあたり、調査の同行させていただいた東京都立大学鈴木 浩平氏、科学技術庁志波由起夫氏には報告書やメモを通じて情報をいただいた。記して謝意を表したい。


7.あとがき

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